コーススレッドステンレスの主な材質にオーステナイト系SUS304とSUSXM7があり、そしてマルテンサイト系SUS410の特性にステンレス特性の「錆びない理由」があります。
●『ホームセンターでコーススレッドステンレスを購入したかったのですが、SUS304とかSUS410とかあり、よくわかりませんでしたので買えませんでした。』DIY初心者
●『ステンレスSUS304のコーススレッドを買って、早速、インパクトドライバーでツーバイ材に打ち込んでDIYしてみたところ、何個かトルクに負けてネジ頭の+をなめてしまい失敗しました。ネジ頭の+をなめてしまったので、抜くにも抜けずに大変苦労しました。安物でもステンレス製だから鉄のコーススレッドより強度があると思って買ったのですが、プラスのビットもちゃんと合っているのに、なんで、なめたり、ねじ切れやすくなったりするのか、そのもろさにガッカリしています。』DIY歴3年
「ネジ類の中では、ステンレスは最強、サビに強く強度がある」
「コーススレッドのステンレスは錆びない!絶対錆びない!」とか、
と思っていませんか?
確かにそうですが、それはものによります。
コーススレッドのステンレスはサビない訳ではなく、ステンレスでも錆びるものもあります。
一般的には「サビにくいだけ!」なんです。
また、強度面でも一般的なネジより劣る場合もあります。
今回は、「コーススレッドのステンレス規格について」の記事です。
併せてコーススレッドのおもな材質規格のユニクロ・クロメートもお伝えいたします。
ステンレスは誰でも聞いたことあると思いますが、ピカピカした金属で錆びないってイメージがあると思いますよね。
私も昔、美大で勉強した書籍をひもとき、ステンレス素材は意外と奥が深いので、基本的なことを工業デザイン業を営む筆者が、分かりやすくご紹介します。
コーススレッドのステンレスとは?
ステンレスは、英語で「STAINLESS STEEL」 と書きます。
STAIN=よごれ、しみ、錆び
LESS=ない
STEEL=はがね、鋼鉄
「錆びない鋼鉄」とつまり、ステンレスとは『錆びない鉄』という意味です。
(やっぱり錆びないんだと思われますよね)
プロの方はステンレスのことをSUS(Stainless Used Steelと表記されるので)をサスと呼んでいます。
SUSとは、ステンレス鋼材の棒、板、帯、線、管等であることを示しています。
304とか410は、ステンレスの種類を表し、数字は米国の鉄鋼協会の規格であるAISIに準じたものです。
ステンレス鋼は
Fe(鉄)を主成分(50%以上)として
Cr(クロム)を重量比で10.5%以上~32%以下、
C (炭素)を1.2%以下含む合金鋼です。
つまり、ほとんど鉄です。
ですから、鉄の特性は一見隠れていますが、ものにより錆びたり磁石にくっついたりくっつかなかったりします。
ステンレス鋼素材から見るコーススレッドステンレスの規格種類とは?
鉄と混ぜるクロムの含有量でステンレスは5系統の分類ができますが、成分で大別するとクロム系とクロムニッケル系の2種類になります。
細分化するとなんと200種類以上に及びますので、奥が深すぎてDIYの範疇ではありません。
コーススレッドのステンレスで重要なところをピックアップして整理してみます。
1 オーステナイト系・・・
ニッケルが混ざっているため、薄金色がかっている。
耐熱性、耐食性、加工性に優れ、光沢があり、表面処理が不要。
磁石に付きにくいが、加工磁性により製品には磁性が発生することがある。
オーステナイト系でDIYのコーススレッドのステンレスで関係が深いのが次の2つ
SUS304=「サスさんまるよん」と読みます。
=Fe(鉄)74%+Cr(クロム)18%+Ni(ニッケル)8%
【18-8ステンレス】と呼ばれます。
SUSXM7=「サスエックスエムセブン」と読みます。
=Fe(鉄)70%+Cr18%+Ni(ニッケル)9%+Cu(銅)3%
2 マルテンサイト系・・・
焼入れにより硬化する。ステンレスコーススレッド等は、焼き入れを施し、これを使用していることが多い。
SUS410=「サスよんいちまる」と読みます。
=Fe(鉄)87%+Cr(クロム)13%
【13クロムステンレス】と呼ばれます。
3 フェライト系・・・
熱処理により硬化する事がほとんどなく、焼なまし(軟質)状態で使用される。
SUS430=「サスよんさんまる」と読みます。
=Fe(鉄)82%+Cr(クロム)18%
【18クロムステンレス】と呼ばれます。
4 オーステナイト・フェライト系(二相系)
物理的性質はフェライトとオーステナイトのほぼ中間です。
5 析出硬化系(せきしゅつこうかけい)
代表的な鋼種は、SUS630とSUS631
この分類でコーススレッドのステンレスで主な材質は
オーステナイト系・・・SUS304・SUSXM7
マルテンサイト系・・・SUS410
となります。
ステンレスの『錆び』とは?
さて、ステンレスの錆びの話です。
ステンレスは鉄にクロムやニッケルを混ぜた合金で、ステンレス鋼と呼ばれる鉄の性能を高める錆びにくい合金鋼です。
ステンレスも鉄が主成分となっているので、やはり『錆び』とは無縁ではありません。
ステンレス鋼は、鉄と混ぜるクロムの含有量を10.5%以上にして、空気中の酸素と触れると、ステンレス鋼表面は1~3 nm(ナノメートル)と言う超極薄の錆のような酸化皮膜で覆われます。
ちなみに、1 nm(ナノメートル) = 0.000001 ミリメートル。
超極薄なので酸化皮膜は目に見えない(自然酸化皮膜)皮膜になります。
錆と言っても、鉄が錆びる赤錆とは違い、
酸化皮膜は一度形成されると、表面をコーティングして外部浸食を抑えてくれますので、内部を腐食させない働きがあります。
ステンレス鋼を錆びにくくしているものが、酸化皮膜なんですね。
この酸化皮膜のことを『不動態皮膜』といいます。
酸化皮膜は保護膜として地金まで酸化が及ばないことがステンレス鋼の腐食を防ぐと言われています。
酸化皮膜は、仮に剥がれても酸素と反応してまた修復していく性質をもっています。
なんと、加工・切断などでキズついても、Cr(クロム)が適量(10.5%以上)あれば空気中の酸素と結合してすぐ再生します。
こうした現象を、ステンレスが不動態化するともいいます。
ここが凄いところです。
ステンレス鋼の耐食性は、Crの含有率が高くなるに従い、不動態被膜が強固になり耐食性が良くなります。
特徴としての「自己修復性」は、破れても、ステンレス鋼中のクロムと大気中等の酸素とが反応して、同じ皮膜を瞬時に再生します。
酸素の供給がさまたげられない限り、自己修復性は何度でも繰り返し発揮されます。
しかし、
通常は「自己修復性」により酸化皮膜が壊れても直ぐに再生しますが、酸素の供給がさまたげられる環境により再生しない場合があります。
このように腐食(錆)の発生原因は酸化皮膜が壊れることから起きると言われています。
酸化皮膜の再生を妨げている酸素供給の不可に、ステンレス表面の汚れや海岸沿いなどでの塩分付着などがあります。
その他に錆びる要因として、「もらい錆」と言われるものがあります。
「もらい錆」とは、錆ができた金属製品から、錆だけが移ってできる汚れのことを言います。
鉄成分がステンレス鋼表面に付着し、錆に発展してステンレスが錆びたように見える、あたかもステンレス自身が錆びたように見える現象です。
これが、
「ステンレスは他の鉄鋼材に比べると錆びにくいが、完全に腐食(錆)しない訳ではない」という理由です。
ステンレス鋼を錆びにくくしているものが、酸化皮膜だとわかりましたが、この酸化皮膜を酸素よりさらにCr(クロム)と結びつきやすい硝酸系の酸化剤により人工的に厚くすることで、防錆性能を向上させるのが『パシベート処理』と言います。
ちなみに、鉄の『錆び』ってご存知ですか?
あなたは鉄につく『錆び』のこと知っていますか?
『錆び』は二種類あります。
赤錆と黒錆。で、黒錆ってご存知でしたか?
赤錆とは、錆自体に赤みがかっているもので、鉄そのものを腐蝕させ、ボロボロにしていく性質を持ちます。
鉄板が赤錆に侵されているのを見たことがあるかもしれませんが、これは酸化鉄で水や酸素に触れると自然に発生する錆びです。
では、黒錆は?
鉄の表面にできる酸化膜のことで、自然に発生することはありません。
高温に熱するとか、メッキするなど意図的に鉄の表面に黒錆の膜をつくると、赤錆の発生を抑えることができるので、結果的に錆や腐食から鉄を守ることができるのです。
これ、調理のフライパンですね。
では、コーススレッドの商品パッケージを見てみましょう。
おもなコーススレッドのステンレス材料規格表示
商品パッケージには、商品情報がたいてい網羅されています。
建築金物メーカー【ノグチ】の建築用ビスブランド【匠力】(たくみぢから)のコーススレッド徳用箱とダイドーハント (DAIDOHANT) ステンレス コーススレッド (フレキ/半ネジ) [ XM7 ]
例に『コーススレッドのステンレス』をクローズアップしてみます。
先ず、上図の①・②・③を説明します。
SUSのコーススレッドは大体この3種類。
価格の高い順に並べると、
SUSXM7>SUS304>SUS430>SUS410となります。
おもなコーススレッドのステンレス
①SUS304「サスさんまるよん」の材料特性
オーステナイト系 クロムニッケル系
SUS304=Fe(鉄)74%+クロムの含有量Cr(クロム)18%+Ni(ニッケル)8%
【18-8ステンレス】と呼ばれます。
メリット
●製造量は全ステンレス生産量の60%、家庭用でも工業用でもオールマイティに使える
●弾性の限界を越えて、破壊されずに引きのばされる延性(えんせい)や材料の粘り強さの靭性(じんせい)に優れているので、常温で金属に曲げ、切断、圧延、鍛造などの冷間加工ができる。
●防錆優先の高度な防錆力
●耐熱性、耐食性、加工性に優れ、光沢があり、表面処理が不要。
●磁石に付きにくいが、加工磁性により製品には磁性が発生することがある。
●溶接もできる。
●使用場所:防錆力が抜群なので、湿気のある場所や外回り(外壁や屋根など)でもOK。
デメリット
冷間加工ができるが冷間加工性があまりよくない。 加工によって硬化し、「割れ」や「欠け」が発生することもあります。 また金型や工具の寿命も短くコスト高になります。
●炭素が0.08%以下に抑えてあるため、硬さは他のステンレスより少々劣ります。
●頭部の+をなめて壊しやすい
電動ドライバー・インパクトドライバーのプラスビットで打つ際、コーススレッド頭部の+をなめてしまう。頭部の+をなめて壊してしまうとコーススレッド打つことも外すこともできなくなるので、注意しましょう。
対処方法:打つ際はプラスビットをネジ頭部の+に入れ込み、確実に噛ませて押しながら打ち込むと良いです。
●簡単にネジ切れる場合がある
ツーバイ材のような厚い木材同士を固定する際、下穴を開けないで、いきなりインパクトドライバーを使用するとカンタンに折れることがある。
対処方法:オーステナイト系のステンレスネジは必ず下穴を開けてから打ち込みましょう。
●磁性があまりないので、磁石のついたビットでもくっつかないので使いにくい。
②SUSXM7「サスエックスエムセブン」の材料特性
オーステナイト系 クロムニッケル系
SUSXM7=Fe(鉄)70%+Cr18%+Ni(ニッケル)9%+Cu(銅)3%
●SUSXM7はSUS304にCu(銅)を添加して冷間加工性の向上をはかった冷間圧造用の鋼材です。
●SUS304のデメリットは冷間加工性がよくないことです。
冷間加工とは加熱しないで常温で金属に曲げ、切断、圧延、鍛造などができる加工のことで、冷間加工によって硬化し、加工品の「割れ」や「欠け」が多く、金型や工具の寿命も短くなり、不良率が高く結果的にコスト高になります。
このデメリットを性能改良し加工しやすくしたステンレス鋼がSUSXM7です。
冷間圧造とは材料を熱する事なく、常温の素材を高速下で金型に入れ、絞り加工・据込み加工・孔明加工などの工程を用いて、金型の中で圧縮させて形状を作り上げる加工法です。
耐食性や強度はSUS304と同等で、JIS規格認定品
③SUS410「サスよんいちまる」の材料特性
マルテンサイト系 クロム系
SUS410=Fe(鉄)87%+クロムの含有量Cr(クロム)13%
【13クロムステンレス】と呼ばれます。
熱処理ができる・・・鉄が約87%多く、その中に含まれるC(炭素)も多く熱処理ができるので、焼入れで固く強くなり硬化性が増す。
メリット
●最大のメリットは焼入れにより硬化する。SUS410のコーススレッド等は、焼き入れを施し、これを使用している。
●焼き入れで硬化性に優れているので、下穴なしで硬質系ボードにも打ち込める。
●SUS304より硬くインパクトドライバー対応で、打ち込み時のネジ折れやコーススレッド頭部の+なめを防止できる。
●磁性があるので、磁石のついたビットにしっかりくっつくので作業時に便利。
と言っても打つ際はプラスビットをネジ頭部の+に入れ込み、確実に噛ませて押しながら打ち込んでください。
●価格が安い・・・価格の高い順に並べると、SUSXM7>SUS304>SUS430>SUS410となり、いちばん安価。
デメリット
SUS304よりも防錆に関しては劣るのでSUS410は錆びることがありますが、錆びたとしても錆垂れがでる程にはなりません。
ステンレス以外のコーススレッドの材料規格表示
商品パッケージには、商品情報がたいてい網羅されていますので、その他の材料表示を見てみます。
建築金物メーカー【ノグチ】の建築用ビスブランド【匠力】(たくみぢから)のコーススレッド徳用箱
例に『コーススレッドのメッキ』をクローズアップしてみます。
先ず、上図の④・⑤を説明します。スチール製(鉄)のコーススレッドは大体この2種類。
おもなコーススレッドのメッキ仕様
④ユニクロメッキ
アメリカのユナイテッドクロム社が開発した亜鉛めっきのクロメート処理の商品名です。
日本では光沢クロメートをユニクロ(ユニクローム)と言って言います。
鉄に亜鉛メッキしてクロメート処理のもので美観重視。
耐食性を特に重視しない場所(水場や湿気のある場所)以外の乾いた室内向け。
⑤クロメートメッキ
材質:鉄●表面処理:三価クロメート(シルバー仕上)
亜鉛めっきした後に、変色を防止するのと耐食性を持たせるためにクロメート処理をします。
クロメート処理とは、三価のクロム酸を主成分とする処理液で表面処理する方法です。
金属をクロメート処理すると表面に酸化皮膜ができ、耐食性が向上し錆びにくくなります。
クロメート処理は耐食性の向上を目的としています。
スチール製のコーススレッド
スチール製のコーススレッドは、ユニクロメッキ(亜鉛メッキを施されたもの)が安価で購入しやすく室内向け。
スチール製のコーススレッドは、ビスの頭部十字穴があまり硬くないのでインパクトドライバーでなめやすく(壊しやすく)ネジ切れがある。
スチール製を間違えて屋外で使うと大変、経年劣化で必ず錆びます。
以上です。
まとめ
コーススレッドのステンレスをご理解していただくために、「ステンレス鋼はなぜ錆びにくいのか」というテーマで記事を書きました。
専門用語がたくさんありますが分かりやすくお伝えしました。
まとめると、
Fe(鉄)を主成分(50%以上)としてCr(クロム)を重量比で10.5%以上~32%以下、C (炭素)を1.2%以下含む合金鋼です。
鉄と混ぜるクロムの含有量を10.5%以上にして、空気中の酸素と触れると酸化皮膜を形成する。
この『不動態皮膜』(酸化皮膜)は一度形成されると、表面をコーティングして外部浸食を抑えてくれますので、内部を腐食や錆びから守る働きがあります。
これがステンレスが錆びない理由。
仮に剥がれても酸素と反応してまた修復していく性質をもっています。
しかし、酸素供給できなくなるステンレス表面の汚れや塩分付着、もらい錆などが原因で酸化皮膜が壊れることから起きるのがステンレスの錆びと言われています。
鉄と混ぜるクロムの含有量でステンレスは5系統の分類ができますが、この分類でコーススレッドのステンレスで主な材質は
オーステナイト系・・・SUS304・SUSXM7
●防錆優先で錆びにくく、耐熱性、耐食性、加工性に優れ、光沢があり、表面処理が不要。
●磁石にくっつかない。
●硬さは他のステンレスより少々劣ります。
マルテンサイト系・・・SUS410
●焼き入れで硬化性に優れているのでSUS304より硬い。
●磁石のついたビットにしっかりくっつく。
●他のSUSコーススレッドより価格が安い。
●SUS304よりも防錆に関しては劣るので錆びることがあるが、錆びたとしても錆垂れがでる程にはなりません。
ステンレス以外のその他のコーススレッド
スチール製のコーススレッドは、ユニクロメッキとクロメートメッキがある。
『亜鉛メッキ』だけだと変色してしまうことと耐食性を得るために、『亜鉛メッキ』後に「クロメート処理」を行います。
クロメート処理の耐食性が高い順に
1.黒色クロメート(黒クロメート:黒色)
2.有色クロメート(クロメート:虹色)
3.光沢クロメート(ユニクロ:青系の色)
なんでもそうですが、
知っていれば、なんてことないことですが、知らないと、悩んでしまい、とてもわかりにくいのが規格かもしれません。
とりあえず参考になれば幸いです。
では、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
DIYネットサンク ノマー
引き続き
コーススレッドの関連記事
コーススレッドについて、本記事以外にも下記のようにありますので、
ご理解いただけますように是非ともお読みください。
『コーススレッドとは?木ネジやビスとの違いで簡単にわかる!』
『コーススレッド規格とは?商品パッケージから分かる5つの情報!』
『コーススレッドの長さは?取付材の厚みとネジ込み深さ20mm以上』